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東ティモールからのニュース・レター    Lafaek Correspondence
The News Letter from East Timor, No.8 2016年5月1日
Residencia Santo Inacio de Loyola
Taibesi, Cinarate, Dili, P.O.Box 209, East Timor tel. +670-7700-5866 e-mail: urasj@jesuits.or.jp


                                                     聖イグナチオ学院基金
                                                      現地世話人 浦 善孝


                  
東ティモールの新しい学校設立の協力者のみなさまへ
               聖イグナチオ学院(中学高等学校)・聖ヨハネ・ブリトー教育大学−


 
 熊本地震で被害に遭われた方々に、心からお見舞いを申し上げます。
 1日も早い、復旧を願っています。
 
 南洋の島から、みなさまにご挨拶を申し上げます。

 今年1月、東ティモールの聖イグナチオ学院中学高等学校は開校4年目を迎えました。そのために高校も開校し、現在中1から高1までの男女生徒約400名が聖イグナチオ学院で学んでいます。また、かねてから準備が進められていた聖ジョアン・デ・ブリトー教育大学も、今年(2016年)1月25日に開学することができました。現在ディリのイエズス会志願院(カトリック教会の修道会イエズス会への入会を希望する若者の寄宿舎)の教室を借りて、講義を行なっています。来年(2017年)からは、聖イグナチオ学院の空き教室を使って講義を行なうために学生たちはウルメラ村にやってくるようになります。聖ジョアン・デ・ブリトー教育大学は開学されましたが、今年は「パイロット・クラス」の位置づけで学生はまだ25名だけしかいません。来年は50名受け入れる予定にしています。この教育大学は高校教員養成のための4年制大学で、さしあたり英語科と宗教科の教員養成コースを開設します。幸いに東ティモール政府が、聖ジョアン・デ・ブリトー教育大学のために聖イグナチオ学院に隣接する土地を提供し、また校舎建設のためにも資金を提供することになりました。大学建設用地の借用についてはすでに政府との間で契約が整っていますが、校舎建築資金については関係省庁の最終承認を待っているところです。

 聖イグナチオ学院には現在約20名の教員がいて教えていますが、「教科の知識」と「教授法」、そして「教員としての使命感や倫理観」などがまだ十分ではありません。独立の混乱の中で教育を受けることが難しいかった時代に育ったことから、こちらでは大学の卒業年齢が20歳代後半以降になります。そのために新卒として教員を採用しても、教員としての十分な資質が備わっていないと感じられることが多々あります。準備なしで授業し、担当クラスがあっても欠席、遅刻、早退することも茶飯事です。定期考査や小テスト、宿題などを返却せずに成績をつけたりすることもあります。突然、学校に来なくなる先生方もいます。また、聖イグナチオ学院でも在籍する教員の半数近くが大学卒業資格を持っていません。インドネシア統治時代には、特に高校においてはほぼ全教員はインドネシア人でした。東ティモール独立後、一斉にインドネシア人教員が本国に引き揚げ学校制度は一旦崩壊してしまいました。インドネシア統治時代のインドネシアの教科書も使えず、教育省はポルトガル語で書かれた教科書をゼロから作り始めています。独立の戦乱の中で校舎も破壊されてしまいました。東ティモールは独立して、まだ13年しか経っていない人口約120万人の小国です。

 聖イグナチオ学院所在地のウルメラ村の公立小中学校の校長先生が彼の職員室で、「倫理観や道徳観は、すべて崩壊してしまった」と力を込めて語ったのが印象に残っています。「それを知っている、そして教える教員もいないんだ」。学校教育は「学力としての知識」だけではなく、他者と一緒に生きて行くために必要な心得(ライフ・スキル)も同時に教えるものだと感じています。学校で働いている3人の比較的若い守衛さんは、初等教育を終えていません。それは「読み書き」だけではなく、互いにコミュニケーションをとって連携して円滑に一緒に仕事をすること、ゴミを拾うこと、草を刈ること、など他者や環境に対する気配りを学ぶ機会も得られていなかったことを意味します。守衛さんに、掃除をしてもらったり、草刈りをしてもらったりするために、簡単な学校の地図(見取り図)を描いて説明しますが、おそらく「地図を読む」ことも、「字を読めない」ことと同じように出来ないようです。そのために、聖ジョアン・デ・ブリトー大学できちんとした教員養成を提供することは、そこで学ぶ若者一人ひとりと、社会に大きな貢献をすることになるだろうと感じています。また、聖イグナチオ学院では、「貧富の隔たり無く、学びたいすべての子どもたちに良い教育を提供できるきちんとした学校」の東ティモールにおけるパイロット・スクールを創ることを目指しています。

Lafaek Correspondence とは「ワニ通信」という意味です(Lafaekはテトゥン語でワニです)